この一文字が今回のキーワードです。

『クレヨンしんちゃん』の単行本3巻に、しんのすけがたいやきを買いに行く話(e-2、101~103頁)があります。

しんのすけは「たいやき」ではなく「タイヤ焼き」と呼んでいましたが、しんのすけはたいやきを売っている店で、最初に「ききムややり」と注文します。


た こ や き
た い や き
アイスクリーム
今  川  焼
お 好 み 焼
や き そ ば



という店が掲げていたメニューを縦に呼んでしまったのです。しんのすけはたいやきを買いに来たのを忘れたように見えますが、すぐに思い出したようで赤石という店員のおねいさんに「タイヤ焼!!」と注文します。赤石さんに「いくつ?」と訊かれると、しんのすけ曰く「ご」

みさえ一つ、ひろし一つ、シロ一つ、自分は二つという、なかなか厚かましい配分なわけです。

ちなみに、今のしんのすけがたいやきを買いに行くと、いくつ求めるでしょうか。

おそらく当時と同じ「ご」ではないかと思います。

みさえ一つ、ひろし一つ、シロ一つ、自分も一つ、そしてひまわりも一つという配分です。

今のしんのすけは当時と違って、兄としての自覚を持っていますので、自分だけ一つ多くするという厚かましい配分にするとは、ちょっと考えにくいです。

また、五つであればしんのすけの頭の中でも思い浮かべるのは容易でしょうが、六つだと数が少し多くなって、しんのすけも頭の中でうまく思い浮かべられない気がします。

何はともあれ、かつてはしんのすけの幼さの象徴とも言える一方、今言ったらしんのすけの成長の証しとみなし得る「ご」は、当時のしんのすけの迷台詞ですが、今となっては名台詞になり得るという稀有な台詞ではないかと思ったりします。

さて、しんのすけは「ご」の後にたこやきの甘い味を注文しますと、赤石さんは甘いのは無いと笑顔で返しますが、しんのすけはバナナ味を注文します。すると、赤石さんはだから甘い味は無いと急に怒り出し、上司らしき男性からスマイルを求められます。

たこやきに甘いのが無いと分かったしんのすけは甘いのは要らないと言いますが、しんのすけは「それあまいのください」と言い、指をさした先にはたこやきがありました。ここでもしんのすけは「ご」と言います。全然分かってねぇ。

おそらく、しんのすけが言う「あまいの」とは、しんのすけが当時好んでいたコアラのマーチやチョコビスケットで味わえるチョコレートではないかと思います。つまりしんのすけが言う甘い味とはチョコレート味のみで、バナナ味は甘い味の定義から外れていたのかもしれません。さらに、しんのすけはたこやきが何なのか分からず、興味本位で注文したのでしょう。

そんなしんのすけに対して、赤石さんは「てめ~」と怒ります。店員失格ですな。

接客をやっていると、たまに訳の分からない事を言ってくる変な客に遭遇することがあります。そういう頭大丈夫かと思ってしまう客は大人にもいるのですから、5歳児が「甘い味」の意味を厳密に理解していなかったり、たこやきが何なのか分からなくても不思議ではありません。

ですから、何度もしつこく理不尽な事を言われてもやんわりと返すくらいでないと、接客などとても務まりません。あの上司らしき男性も「スマイルスマイル」と不安になりながら声をかけるだけとは、情けないです。本気で店を守る気あるのか?

私も接客業を経験していますが、もし店員がお客に対して失礼なことを言い出したら、上司や先輩は襟を掴んで「お前は中にいろ!」と客の目の届かないところへ行かせます。そして別の店員が対応してから、かなり厳しく叱責するでしょう(←私の実体験でもあります。私は叱責される側でした)。

まして5歳の子供に「てめ~」なんて言ったら、解雇処分もあり得るほどの厳しい処分を受けるはずです。赤石さんは正社員ではなくバイトかもしれませんが、あんな対応は絶対にあり得ません。にもかかわらず、いやだからこそか、今「てめ~」の場面を読むと大笑いしてしまいます。

この話は『漫画アクション』の1992年2月18日号(2月4日発売)に掲載されましたが、当時はまだバブルの余韻が残っていた時代、今より店員の態度は悪かったのかもしれません。例えば当時の銀行員は今では考えられないくらい横柄だったとか、タクシーではワンメーターだと怒りを隠さない運転手も珍しくなかったという話を聞いたことがあります。

そういえば、初期の『クレしん』にはしんのすけにブチ切れる店員がよく登場していました。これは、当時の接客業に対する風刺と解釈することが可能でしょうか。

この時代の中で現れた「ご」は、そんな接客に風穴を空けるべく発せられた迷台詞にして名台詞だったのかもしれません。

なお、この話のテレビアニメ版は「たい焼きを買いに行くゾ」(1993年2月15日放送)ですが、この時の店員は初期の頃の準レギュラーの酒井しのぶでした。しのぶは以前(「女子大生はお友達だゾ」(1992年6月15日放送)、「女子大生バイトはつらいゾ」(1992年10月26日放送))にもしんのすけに嫌がらせを受けていたので、しんのすけが来た途端、機嫌を悪くしていました。一応テレビアニメ版でもしんのすけはにやけながら「ごぉ」と言っていましたが、インパクトは強くありません。テレビアニメ版はしのぶとしんのすけのやり取りがメインだったので。この時のしんのすけはたこやきの注文でバナナ味だけでなくチョコパフェ味の注文もしていたので、テレビアニメ版のしんのすけはチョコレート味も甘い味とは認識していなかったようです。あるいは、チョコパフェのチョコはスナック菓子のチョコレートとは別物だと認識していた可能性もあります。

しんのすけに精神的に追い詰められたしのぶは、「てめ~」ではなく「いい加減にしろい!」と怒鳴り、上司(中年の女性)に「酒井さん、クビ!」と言われていました。テレビアニメ版では、というかしのぶがバイトをする店では、接客に非常に厳しかった、というかまっとうな対応をしていたようです。バブルの直後でも接客に厳しいところも珍しくなかったようです。まあ、そうですよね。

それと、今回の記事のタイトルは『クレヨンしんちゃん分析録』史上最も短いです。これより短いのは半角英数字一文字だけですが、今のところ半角英数字一文字のタイトルの記事を書く予定はありません。記録更新はいつになりるかな。


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この記事へのコメント

はいじま
2018年05月04日 08:50
う~ん、このエピソードをここまで深く考えているとは。
当時リアルタイムで「アクション」に連載されていた「クレヨンしんちゃん」を読んでいた私としては、このエピソードは単に「だらくやストア物語」の延長戦のノリだと思っただけでした。
このエピソードが掲載された頃に、「アクション」連載の「クレヨンしんちゃん」のページに「TVアニメ化決定!」の文字が現れて、すごく驚いたのは今でも覚えています。
チョルス
2018年05月05日 04:50
私がこの話を初めて読んだのは小学生の時ですが、しんのすけの「ご」という台詞が妙に印象に残っていました。後に『だらくやストア物語』や単行本未収録の作品に触れるようになってから、この話についてさらに色々と考えるようになり、今回記事にまとめることにしました。
確かに初期の『クレヨンしんちゃん』は、『だらくやストア物語』の延長という感じの作風だったと思います。ただ、連載開始から約1年半経ったこの時期のしんのすけは、最初期の頃に比べると徐々に子供っぽくなっていて、『だらくやストア物語』とは作風が異なるようになり、「ご」という台詞はそんな当時の『クレしん』の独自性が表れている気がします。
この話が掲載されたのは1992年2月18日号(2月4日発売)ですので、確かにテレビアニメの2ヶ月前になりますね。この時からリアルタイムで『クレしん』を読まれていたとは驚きです。「はいじまゆきどっとこむ」のページの中でも書かれていましたが、はいじまさんも『クレしん』がゴールデンタイムで放送されることも、そして今みたいに20年以上も続く長寿作品になるとは想像さえされなかったとのことで、確かに『クレしん』が今のような人気作品になることなど、誰も予想していなかったはずです。

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