『やりすぎ!!!イタズラくん』の場合

前回の記事でも書いたように、『やりすぎ!!!イタズラくん』という漫画が引き起こした問題について取り上げます。

「吉野あすみ」という漫画家が小学館の児童向け月刊漫画雑誌『コロコロコミック』で連載している『やりすぎ!!!イタズラくん』という漫画は、イタズラくんという小学生が色々なイタズラをやるというギャグ漫画で、単行本は現在1巻2巻が出版されています。

私は、この記事で取り上げる騒動を知るまでは、この作品を知りませんでしたが、DMMブックスで単行本の無料サンプルを読んでみたところ、『かりあげクン』や『いじわるばあさん』を子供向けにした感じの作品だと思いました。

さて、2月15日に発売された『コロコロコミック』の3月号に収録されている『やりすぎ!!!イタズラくん』では、イタズラ君が「ゲキムズ社会科テスト」で、問題に描かれている歴史上の人物を回答する際、肖像に落書きを施して答えを思い出すというのが、今回の話の中核をなしているギャグです。

まず、社会科の教科書に西郷隆盛と坂本龍馬と織田信長の肖像画を貼り付けるというギャグがありますが、これは落書きではありません。この後、テストの落書きをした歴史上の人物は、アインシュタイン、チンギス・ハーン、ナポレオン、足利義満、あと人物ではありませんが縄文土器です。

それで、イタズラ君は各回答欄に、アインシュタインをシーズ犬、チンギス・ハーンをチンチン、さらにチエ●・ブルゾンと書き、さらにナポレオンを「フランスのデュエルマスター。デュエマ界を支配した」と回答、足利義満をキューピーに落書きして室町幕府 第「3分」代将軍、縄文土器はベイブレードスタジアムと書いたのでした。

クラスの優等生らしき小池田君は、こういうイタズラくんの回答にいちいち突っ込みを入れまして、イタズラくんと漫才をやっているようにも見えます。こういうところに、ギャグの面白さをさらに引き立てようとしているようです。

この話を単に通読する限りでは、いかにも『コロコロ』らしい下ネタのギャグが入った子供向け漫画にしか感じません。ああ、小学生男子が喜びそうな内容だなというわけで。

しかし、この漫画にあるチンギス・ハーンの落書きに、元横綱の朝青龍氏が激怒し、さらに駐日モンゴル大使館が日本の外務省に抗議を入れ、外務省も小学館に表現の内容に注意するようにと通達し、小学館がモンゴル大使館に謝罪するという事態になりました。

ただ、この謝罪には形式的なもので、小学館は誠実な対応をしているようには見えません。少なくとも、小学館は『コロコロコミック』の3月号の回収はしていません。この事はこのページに詳細が書いてあります。

今回の『やりすぎ!!!イタズラくん』の内容を、詳しく書いていることからも分かると思いますが、私は実際に『コロコロコミック』の3月号を購入し、今も手元にあります。普通に書店で平積みで売ってありました。何の問題も無く、普通に買えました(それにしても、『コロコロコミック』を買うなんて約25年ぶりになりますかね)。

2月26日には、在日モンゴル人による抗議デモが小学館前で行われるそうですが、小学館は事なかれ主義を貫く姿勢のようです。デモがきっかけで態度を変えるかもしれませんが、とりあえず謝罪する、でも雑誌の回収など具体的な対応策は取らないということで、形式的に謝ってほとぼりが冷めるのを待っているように見えます。これでは、また同じような事を繰り返すでしょうね。

今回の小学館の対応は残念なものです。もし、謝罪するなら『コロコロコミック』の回収をして、雑誌の中にある足利義満とチンギス・ハーンの落書きコンテストなども中止して、徹底した措置を取るべきです。具体的には、このページにも書いてあるように、全国書店からのすみやかな自主回収、コンテストの中止の告知、コミック化に際しての問題箇所の適切編集、次号における同作品内での謝罪文の掲載、さらに作者の吉野あすみ氏によるモンゴルへの誠実な弁明です。ところで吉野氏のツイッターは非公開になっていますが、もしかしたら小学館の編集部にそういう指示があったのかもしれません。ほとぼりが冷めるまで非公開にしろと。

あるいは、謝らないという選択肢もあったはずです。今回の騒動で、モンゴル人が名誉棄損や精神的苦痛を受けたことなどで、小学館に訴訟を起こしても、まず勝訴できないでしょう。あのチンギス・ハーンの落書きは、日本の法律で違法とは言えないはずだからです。そもそも、800年も前の歴史上の人物を侮辱したことが原因で賠償命令が下りたという判例など聞いたことがありません(そんな判例あるのですかね)。

つまり違法性は無いため、小学館は表現の自由を盾に、自分たちの権利を毅然たる態度で主張できたはずです。そうなると、モンゴル人の側からさらなる反発を招くでしょうが、そうすることで徹底的な対話のきっかけになります。そうして、朝青龍氏をはじめ、モンゴル人がなぜあそこまで反発するのか、小学館の側も理解できて和解の糸口が見つかるだろうと思いますし、日本社会において言論の自由や表現の自由とは何かということを、改めて考え直すきっかけにもなったかもしれません。

ところで、私は大学生の頃に中国人留学生の友人がいましたが、この女子大生は漢民族ではなくモンゴル族でした。国籍が中華人民共和国で、内モンゴル出身だったのです。私はこの女性からモンゴル民族にとって、チンギス・ハーンは神様同然であるという話を聞いていました。詳細はこのページにも書いてある事です。実は、私が今回の騒動を知って真っ先に思い出したのは、この女子大生のことでした。

だから、個人的には朝青龍氏があれだけ反発する気持ちも分からなくはないですが、そもそも表現の自由はどこまで許容されるべきかを考えた場合、小学館が雑誌の回収など徹底的にモンゴルの側に配慮するという選択が果たして妥当なのか、疑問の余地が残ります。たとえば、フランスの週刊新聞『シャルリー・エブド』がイスラームの風刺画が原因で襲撃を受ける事件がありましたが、フランスの風刺画って『やりすぎ!!!イタズラくん』とは比べ物にならないくらい下品です。

『シャルリー・エブド』が載せてきた絵を見ると、(以下のリンク先の画像は本当に想像を絶する下品なものですので、閲覧注意です)キリスト教の三位一体の風刺画とか、極右政党の国民戦線党首マリーヌ・ル・ペン夫人の親子喧嘩の風刺画とか、よくここまで下品な発想ができるものだと、感心を通り越して唖然とします。

しかし、こういうのもまた表現の自由の元で行われているものです。なので、小学館がモンゴル人側の主張にそのまま従うというのは、そういった自由を狭める可能性があります。もっとも、仮に小学館がそういう措置を取れば、筋は通っていますので、それはそれで誠実な対応だとも言えます。少なくとも、実際の小学館の事なかれ主義よりはるかに良いです。

上に貼り付けたリンク先の記事では、「モンゴルは日本の友国です」と書いてあります。確かにその通りだと思いますが、だからこそ小学館にはとりあえず謝ってほとぼりが冷めるのを待つという態度は取ってほしくありません。

謝るなら雑誌の回収など徹底的な措置を取る(そうなったら私が問題となった『コロコロコミック』が購入できませんでしたが)、そういう措置を取る意志が無いなら、今回の内容に違法性は無く、言論の自由、表現の自由を強調して、謝罪をするべきではなく、徹底した対話をするべきでした。仕事の取引先とかならいざ知らず、本当の友人に対しては、建前と本音を使い分けて、相手の機嫌を伺うようなことはしないでしょう。友人同士なら本音でぶつかり合うのが筋というものです。

ここで、小学館は日本の一企業であり、日本政府の機関ではないという声もあるかもしれません。しかし、今回は外国の大使館や日本の外務省も動いたのですから、前述したような対応をきちんとするべきだと思います。今回の小学館の事なかれ主義の対応は、自分たちは金儲けしか興味が無いよという態度が見え見えです。いくら民間の営利企業とは言え、日本最大級の出版社なのに社会的に負うべき責任感が欠けていると言わざるを得ません。

以上、私の言いたい事をまとめると、謝るなら徹底的にモンゴル人の側に配慮して、雑誌の回収などの措置を取れ。そうする意志が無いなら、謝らないで表現の自由を主張して、モンゴル人の側と徹底的に対話しろ。個人的には後者の対応を取ってほしかったが、現在の小学館のやり方は前者でも後者でもない事なかれ主義で、やるべきではない対応である、ということです。

今後、小学館はどういう対応を取るのか。今後も『コロコロコミック』を購入して、内容を確認しようかと思います。雑誌の中の足利義満とチンギス・ハーンの落書きコンテストは行われるのか。結果は4月14日頃発売の5月号に掲載されるそうです。果たしてどうなっているやら。特に、2月26日のデモの後に対応が変わるかもしれません。

ところで、普段は『コロコロコミック』を買わない私が買っているわけで、他にもこの雑誌と縁の無い人がかなり買っている可能性があります。あれだけ話題になれば、発行部数もいつもより伸びるでしょう。もしかしてこれって、炎上商法なのかなと思ったりもしました。

あと、作者の吉野あすみ氏はツイッターを非公開にしていて、対話を一方的に拒否する構えのようです。まあ、公開したら炎上して、仕事に支障をきたすかもしれませんが、モンゴル人に謝罪、あるいは対話をしようという話は聞いていません。どうも、今回の問題を小学館に丸投げしているようですが、漫画家も自ら謝罪か対話に参加することで、今後の漫画家としての活動で大きな糧になるはずです。作者が出版社以上に事なかれ主義を貫くとは、非常に残念なことです。


(以下、2018年2月28日加筆)

紀伊国屋書店、くまざわ書店、未来屋書店の全店で、チンギス・ハーンの落書きを理由に『コロコロコミック』を販売停止にするという報道が入りました。なるほど、実は昨日、私は紀伊国屋書店に行きまして、コロコロコミックは置いてなかったので、「まさか」と思いましたが、やはり販売停止になっていたのですね。

他の書店でも、販売停止になる可能性はありそうです。ただ、今回の販売停止は各書店の判断によるもので、小学館が回収を呼びかけた訳ではありません。小学館は「対応を協議中」とのことで、このまま『コロコロコミック』の次号が出る3月15日頃まで、問題をうやむやにして乗り切るつもりかもしれません。実に残念な対応だと思うのですが。

それにしても、今回の話は『やりすぎ!!!イタズラくん』の単行本に収録されるのでしょうかね。まあ、小学館の対応を見る限り、話そのものを削除するか当該シーンを修正するかして、今回の件を「なかったこと」にしようという気にするかもしれませんが、その前に落書きコンテストはどうなるやら。


(以下、2018年3月1日加筆)

本日、ジュンク堂と三省堂に行きまして、ジュンク堂では『コロコロコミック』を見かけませんでした。もしかしたら、販売停止にしたのでしょうか。あるいはたまたま見かけなかっただけかも。三省堂は普通に売っていました。



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