「スカシペスタンってどんな国?」と小島剛一先生

5月14日から現在まで、「クレヨンしんちゃん研究所」では「スカシペスタンってどんな国?」というのを載せています。

『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦』の公開記念として、同作の主要舞台でもあるスカシペスタン共和国はどこにあってどんな国なのかということを書いたものですが、このページを掲載した後、書いた際に参考にした書籍の著者である小島剛一氏より、同ページについてのご意見をメールで頂きました。

参考文献の引用ミスをしていたことや、内容の誤謬のご指摘で、さらに小島氏から新しいバージョンのページを作ってみませんかと勧められました。

そして、メールで小島氏のご専門である言語や民族について様々な事を教えていただき、現在そのメールの内容を元に、「スカシペスタンってどんな国?」の新しいバージョンを現在作成中です(2011年6月3日現在)。私の私生活の都合上、完成にはまだ時間がかかると思いますが。

(その後、「新・スカシペスタンってどんな国?」というタイトルで完成しました)

ところで、こちらのブログの管理人は小島氏と実際に会われたことがあるそうで、「話してみると、小島先生は知らないことがないのではと思われるくらい、あらゆることに博識で、ぼくは小島先生との会話が面白くてしかたがなかった」と書かれていますが、私もメールのやり取りをしていて同じ心境を抱きました。とにかく凄い方なんですよ。

ちなみに、小島氏の著書は私の愛読書でもあるので、その著者の方からご連絡をいただいたのは非常にに光栄な事でありましたが、引用ミスをした事をご指摘された時は全身冷や汗というくらいのショックでした。愛読書なのに引用ミスをやらかしたのですから(他にもいわゆる「アルタイ諸言語」を「アルタイ語族」と書くという誤りを犯したりもしました。これも小島氏の著書でも書かれていたことですが)。

ここで、「スカシペスタンってどんな国?」の参考文献として使用した、小島氏の(一般向けの)著書を紹介したいと思います。

トルコのもう一つの顔 (中公新書)
中央公論社
小島 剛一

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漂流するトルコ―続「トルコのもう一つの顔」
旅行人
小島 剛一

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小島氏はフランス在住の言語学者(専攻は言語学と民族学)で、主にトルコにおける言語の研究を行っていたのですが、かつてのトルコでは自国内の少数民族の存在を否定し、彼らの母言語(クルド語、ラズ語、ザザ語など)を話す事を禁止していたため、公の場で少数民族の言語を話しただけで、投獄された人も多いとのことです。

フランスのストラスブール大学の博士課程で、トルコ語をテーマに論文を執筆しようと決め、フランスとトルコを往復してはトルコで調査を続けていくうちに、トルコ語よりもトルコの少数民族の言語の方に力を入れるようになったそうです。

しかし、前述したように、トルコでは少数民族の言語を禁止していたことから、小島氏も次第にトルコの当局に目を付けられるようになり、1986年にトルコの外務省で「自主退去勧告」をされて、事実上の国外追放となります。

『トルコのもう一つの顔』は1977年からこの1986年までの事が書かれています。続編の『漂流するトルコ』はこの国外追放から始まり、再びトルコ入国の機会を得て、トルコ国内の少数民族の言語と人々の交流を重ねますが、結局2003年7月に再び国外退去となってしまうところまでが書かれています。

簡単に著書の紹介をしましたが、極めて重厚な内容なので、一人で多くの方に読んでいただきたいと思っています。

なお、現在のトルコでは少数民族の言語の使用はかなり認められてきているようですが、それでもEU諸国などからの批判もあるように、まだ十分な人権尊重がなされていないのが現実のようです。ここで思い出したのですが、数年前にエルダル・ドーガン氏というトルコ国籍のクルド人とその家族が日本で難民申請しようとするも認められず、代わりにカナダ政府がドーガン氏らを難民として受け入れると表明し、最終的にカナダへ移住したというニュースがありました。

ただ、日本ではクルド人に関するニュースはときおり耳にしますが、ラズ人やザザ人といった少数民族の存在は知りませんでしたし、「デルスィム事変」なども全く聞いたことがありませんでした。これらは全て小島氏の著書を通じて知りました(こちらのページに「デルスィム事変」の生存者の証言が載っています)。

以下に、小島氏の作成したウェブサイトを紹介します。

http://lazepesi.dosti.free.fr/
http://ayla7.free.fr/laz/grammaire.html
>ラズ語文法書・草稿
http://ayla7.free.fr/laz/index.html
>ラズ語トルコ語辞典・草稿
http://ayla7.free.fr/japonais/
>フランス語を母言語とする人のための和仏辞典・草稿

「ラズ語トルコ語辞典・草稿」と「フランス語を母言語とする人のための和仏辞典・草稿」は日本語ではないので、日本で読める方はそう多くないでしょう(私も読めません)が、小島氏の博識ぶりが伺えるサイトばかりです。

小島氏がどんな研究をされて、どんな経験をされてきたのかをちょっと知ってみたいという方は「ラズ語文法・草稿」の日本語版の「はじめに」を読まれるのが良いかもしれません。もちろん、先に挙げた書籍を読まれるのが一番ですが、いずれにしても小島氏のこれまでの研究や経験の氷山の一角なのだろうと思います。

とりあえず、小島氏の助けを受けて「スカシペスタンってどんな国?」の続編を執筆中であるという事を改めて記しておきます。新しいバージョンでは、大部分が小島氏の知識の受け売りとなるかもしれませんが。


(以下、2011年7月16日加筆)
岩波書店から発行されている月刊誌『世界』(1999年6月号)に、小島氏の書かれた記事が掲載されています。『「クルド人」問題とは何か』というタイトルで、前述した小島氏の著書で触れられているトルコの少数民族問題が簡潔に書かれています。

10年以上も前に書かれた記事なので、情報としては古くなっている箇所もありますが、2011年現在のトルコの少数民族について知る上でも参考になると思います。もちろん、この記事が掲載されている『世界』の入手は容易ではないでしょうが、ご興味があれば図書館で閲覧してみるという手があります。

私が知っている限り、該当の記事が閲覧できる図書館は国立国会図書館東京都立多摩図書館の2館のみです。


(以下、2011年9月8日加筆)
2011年8月28日、東京新聞に小島剛一氏に関する以下の記事が掲載されました。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2011082802000033.html
>反骨の言語学者・小島剛一氏 トルコの少数民族弾圧 、政府の圧力に屈せずに真実告発

小島氏の著書『トルコのもう一つの顔』(中公新書)と『漂流するトルコ』(旅行人)の中で触れられている、トルコの少数民族の状況とトルコ政府による弾圧や小島氏への妨害などが言及されていて、またチェルノブイリの原発事故による健康被害がトルコにも及んでおり、その事を踏まえて今回の東日本大震災における日本政府の対応などの批判も書かれています。

私もこの記事を読みましたが、小島氏の履歴の紹介で「身の安全のため勤務先は非公表」と書かれているのには少し驚きました。やはり、未だにトルコの少数民族の言語の研究には身の危険が伴うのでしょう。小島氏の勤務先が公表されない現状では、トルコのEU加盟も実現されることはないのかなと思ってしまいます。

それと、記事にはラズ人(トルコの少数民族)の子供の写真が掲載されていますが、大人のラズ人の写真は「危険すぎて公表できない」と書かれていたのには、驚きを通り越して恐怖すら感じました。私は(多くの日本人と同様に)トルコに対してさほど悪いイメージを持っていませんが、今でもどす黒い一面を持っているのだと実感させられました。

で、暗い話ばかりでなく明るい話もしようと思います。記事によると、小島氏は来春にはまた著書を出されるようで、日本語文法に関する内容なんだそうです。いやはや、どんな事が書かれているのか楽しみですね。


(以下、2011年11月24日加筆)
11月24日、以下のニュースが入っていました。

http://www.afpbb.com/article/politics/2842404/8124243?blog=webryblog
>トルコ首相、1930年代のクルド人虐殺を公式に謝罪

トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdoğan)首相が「1930年代後半にトルコ南東部で起きたクルド人虐殺事件について、初めて公式に謝罪した」とのことです。

この記事の冒頭箇所を読んだ時、私は「まさか」と思って読み進めましたら、やはりこの記事の「クルド人虐殺事件」というのは前述した「デルスィム事変」を指しているようです。

しかし、デルスィム事変の犠牲者はクルド人というより、アレウィー教徒だったはず、と思って小島剛一氏の書籍や『世界』の記事を引っ張り出して確認してみました。

すると、この時の虐殺の対象になったのは、アレウィー教を信奉する人たちで、ザザ人という少数民族が多かったようです。アレウィー教徒の話す言葉はクルマンチュ語(クルド諸語の一つ)、ザザ語、トルコ語で、同一の民族というわけではないです。この辺りは、小島氏の『漂流するトルコ』に書かれていますので、詳しい事はそちらを参照していただければと思います。

しかし、記事には「1936年から39年にかけて当時のデルシム(Dersim、現在はトゥンジェリ、Tunceli)でトルコ軍が行った軍事攻撃」とありまして、これはどう見ても「デルスィム事変」としか言えないのですが、記事では「クルド人虐殺」と不正確な記述がなされています。

世界でもマイナーな少数民族(ザザ人など)が比較的有名な少数民族(クルド人)と混同されているのでしょうね。小島氏と著書を読むまで、私もクルド人問題は(高校生の時から)知っていましたが、ザザ人やアレウィー教徒などは聞いたことがありませんでしたので。

ですから、今回の「クルド人虐殺に対する謝罪」も謝罪としては不適切としか言いようがないです。謝罪によってトルコの少数民族政策が前進することも、あまり期待できないかもしれません。歴史的事実をトルコ政府が正確に把握していない(フリをしている?)ようなので。

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この記事へのコメント

青たこ
2011年06月28日 08:47
「新・スカシペスタンってどんな国?」完成おめでとうございます。
かなり時間がかかりそうとおっしゃられていましたのでもう出来上がったとは驚きましたが素晴らしい内容に仕上がったと思います。
いつもながらチョルスさんの熱心さには頭が下がります。
小島先生も豊富な知識をお持ちでありながら気さくな方のような感じで好感が持てますね。
これは是非増井監督ら製作スタッフの皆さんにも見ていただきたい内容です。
またDVDが出るであろう11月以降に小島先生が実際に作品をご覧になられた場合、新たなご意見が出て来るかもしれませんね。
チョルス
2011年06月29日 00:04
「新・スカシペスタンってどんな国?」を読んでいただき、ありがとうございました。
私自身の考察を書くのに、かなり時間がかかると思っていましたが、結局あまり加筆できることが無かったので、予定よりも早く完成させました。
著書を読まれるとより分かると思いますが、小島先生は天才ですよ。一方で非常に気さくな方で、メールを通じて言語や民族に関して色々な事を教えていただきました。
私のサイトは双葉社の関係者の方も読まれたことがあるらしいので、もしかしたら読んでもらっているかもしれません。それなら非常に光栄です。
小島先生が「スパイ大作戦」を実際に鑑賞されたら、また新たに加筆する機会ができるかもしれません。
ちなみに、小島先生はフランスのストラスブールで合唱団のコンサートで指揮者も務めておられます。いつか、ストラスブールの小島先生のコンサートを鑑賞して、ご本人にも直接お会いしたいです。

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